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令和3年度 英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業 課題解決型廃炉研究プログラム 選定課題

■課題解決型廃炉研究プログラム:合計8課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 建屋応答モニタリングと損傷イメージング技術を活用したハイブリッド型の原子炉建屋長期健全性評価法の開発研究 前田 匡樹
[東北大学]
芝浦工業大学、東京工業大学、日本工業大学、木更津工業高等専門学校、日本原子力研究開発機構 原子力事故を経験した原子炉建屋であっても燃料デブリ取出しから解体撤去まで長々期に亘って重要安全機能(特に構造強度)を確保する必要がある。しかし、現場への接近性が極端に限られるため、2011年の事故やその後の地震など外乱による損傷等の情報の収集、さらには、通常の保全活動が極めて困難な状況にある。水没したひび割れ部等における経年劣化が進行すると、修復に莫大な費用と時間を要し廃炉工程の遅延を招く恐れがある。したがって、できるだけ早期に、建屋のモニタリングや検査により、長々期の構造健全性の推定に見通しを得ておくことが極めて重要である。
本提案ではこのような前例の無い特殊かつ困難な条件と特徴を有する原子炉建屋を対象に戦略的かつ効率的・効果的な保全管理方法を考案するために、必要な以下の技術の研究開発を行う。
  • ①地震等の外乱応答モニタリングによる建屋の構造性状・応答評価法の開発
  • ②電磁波を用いたコンクリート構造物の損傷検知技術の開発
  • ③損傷検知情報に基づくコンクリート材料・構造物の性能評価法の開発
    さらに、これらの多面的な要素技術を組み合わせることで、
  • ④総合的な建屋安全性評価手法の開発と長期保全計画の提案を目指す。
2 燃料デブリ周辺物質の分析結果に基づく模擬デブリの合成による実機デブリ形成メカニズムの解明と事故進展解析結果の検証によるデブリ特性データベースの高度化 宇埜 正美
[福井大学]
大阪大学、東京工業大学、東北大学、日本原子力研究開発機構 格納容器内部調査等の現場情報、燃料デブリ周辺物質の分析データを参照した模擬実験を行い、号機・領域ごとに、燃料デブリの溶融・凝固メカニズム、デブリ形成プロセスを逆推定し、再現されうる事故条件を検証・評価する。評価結果をこれまで得られている知見と照し合せ、燃料デブリデータベースを高度化する。また、燃料デブリの堆積状態の逆推定から燃料デブリ分析の課題であるサンプル代表性に係る知見の取得を試みる。さらに、燃料デブリ取出しにおいて合理的に排除したい発生確率の低いリスクについて検証試験を行い、このようなリスクが発生する化学条件が、どの程度蓋然をもって発生したのかを調査する。これらの検討結果を、本事業の実施者と事故進展解析専門家で共有し、燃料デブリ分析データ活用と、デブリ取出し設計の合理化・効率化に向けた知見を整理する。
3 ジオポリマー等によるPCV下部の止水・補修及び安定化に関する研究 鈴木 俊一
[東京大学]
東京都市大学、産業技術総合研究所、株式会社アトックス、日本原子力研究開発機構 原子炉格納容器(PCV:Primary Containment Vessel)底部では、サプレッションチェンバーやサンドクッションドレンラインからの漏洩があり、また原子炉圧力容器(RPV:Reactor Pressure Vessel)ペデスタル内外には燃料デブリ(推定)及び堆積物があることから、燃料デブリ取り出しにはPCV内水位制御のためにドライウェル下部の止水や補修を行う必要がある。そこで本研究では、PCV底部の止水及び補修と目的として、改良したジオポリマーや超重泥水によりジェットデフレクター等を止水し、併せてドライウェル下部を補修する施工法を提案する。また、堆積状況など未解明な状況にある現場施工の選択肢を増やすため、止水・補修材の対象部位周辺への局所的施工のみならず、ペデスタル外の広範囲にわたる施工についても検討し、最新の熱流動シミュレーション法により、工法実現性を評価する。広範囲に施工する場合には、ペデスタル外に流出した燃料デブリや堆積物は止水・補修材で被覆されて廃棄体となる。このため、燃料デブリの成層化状態等性状を実験及び解析により把握した上で、廃棄体を安定化する方策を検討するとともに、核種浸出性を含めた廃棄体の長期寿命を評価する。以上、本研究では、改良止水・補修材を利用した工法によるドライウェル下部の止水・補修、燃料デブリ安定化、及び廃棄物管理に与える影響を評価し、廃炉工程全体の合理化に資する。
4 世界初の同位体分析装置による少量燃料デブリの性状把握分析手法の確立 坂本 哲夫
[工学院大学]
名古屋大学、東京電力ホールディングス株式会社、日本原子力研究開発機構 少量燃料デブリ中のFP及びα核種を含む微粒子の性状を把握することは、取り出し方法、冷却循環系、閉じ込め、臨界監視、被ばく評価、収納・移送・保管、処理・処分などの一連のシステム設計・手順の検討に不可欠である。既に1F微試料について、国プロで分析を進めているが、SEM-EDS等やTEM-EDSでは同位体識別やPu、Bの分析ができない。一方、ICP-MS等のバルク分析では微小視野での情報が欠落する。つまり、既存の方法では、燃焼率指標情報(Nd-148とUの組成比)、中性子毒物Gdや中性子吸収物質Bの存在比などの局所分析データを含めて燃料デブリ性状を把握するための分析手段がないことが大きな課題である。大洗研究所に導入した同位体マイクロイメージング装置は、放射性の微小試料に断面加工を行いながら同位体分析・成分(多元素同時)分析が可能な世界で唯一の装置である。この装置により少量燃料デブリ試料から核種の同位体組成などの局所的な定量データが多量に得られ、燃料デブリの性状を正しくかつ迅速に把握できる。更なる精度向上のために必要なR&Dを本装置に加えることで、少量燃料デブリの取出し前に分析準備を完了させるだけでなく、既にある1Fサンプルを分析し、これまでに得られなかった燃料デブリの性状把握に必要な直接的なデータを世界で初めて取得して評価検討し、炉内状況把握の検証及び廃炉工程の実施計画に反映させる。
5 アルファ微粒子の実測に向けた単一微粒子質量分析法の高度化 豊嶋 厚史
[大阪大学]
京都大学 燃料デブリ取り出し作業ではウランなどのアルファ線放出核種を含む放射性微粒子(アルファ微粒子)が飛散する懸念があり、実際の作業時にはリアルタイムでモニタリングを行う事が作業者の安全確保や環境汚染防護のために必要である。これまでに本事業の支援を受けて単一微粒子質量分析計(ATOFMS)によるアルファ微粒子の検知に対する基礎検討を行い、応用可能であると評価した。本課題では、福島第一原発の作業現場でのリアルタイム計測に向け、特に239Puを空気中濃度限度まで検出できるように高度化したATOFMS装置の開発を行う。本開発機の実用性を示し、今後のアルファ微粒子のリアルタイム検知法に資する。
6 連携計測による線源探査ロボットシステムの開発研究 人見 啓太朗
[東北大学]
富山高等専門学校、福島大学、日本原子力研究開発機構 廃炉作業を円滑かつ効率的に行うためには高線量率環境下において迅速に線源分布を把握する必要がある。本研究では次の3つの基盤技術開発を行い、作業環境中のホットスポットを発見しマッピングするシステムを構築する。
  • ①指向性を持ち線源の方向を迅速に把握できる小型軽量な放射線検出器を開発する。
  • ②指向性検出器を搭載した複数台のロボットが相互に連携しながら測定空間を動き回ることで、作業環境中のホットスポットの位置を特定するシステムを開発する。
  • ③ロボットに搭載したLidarで作成した作業空間の3次元マップに線量率の情報を投影したマップを作成する。
    さらに、放射線照射施設において実証試験を行う。
7 中赤外レーザー分光によるトリチウム水連続モニタリング手法の開発 安原 亮
[自然科学研究機構 核融合科学研究所]
弘前大学 中赤外レーザーを用いたキャビティリングダウン計測システムによる「濃度60Bq/ccレベル」トリチウム水短時間計測の原理実証を成果目的とする。高性能量子カスケードレーザーを用いたキャビティリングダウンシステムを構築し、重水等を用いた光学特性評価を基にトリチウム水計測を試みる。
8 福島原子力発電所事故由来の難固定核種の新規ハイブリッド固化への挑戦と合理的な処分概念の構築・安全評価 中瀬 正彦
[東京工業大学]
原子力環境整備促進・資金管理センター、岡山理科大学、東北大学、日本原子力研究開発機構 福島第一原子力発電所における汚染水処理で発生した2次廃棄物の安定固化や廃棄体化研究が進められてきたが、最終処分とその安全評価等、社会実装に関する検討を行う。本研究では、汚染水処理やデブリ処理で発生する、固化が難しく長半減期で低収着性のため長期の被ばく線量を支配するヨウ素(I)と、潜在的有害度が高く、長期的な発熱源かつα核種であるマイナーアクチノイド(MA)を含めたアクチノイド(An)に特に注目し、前者はAgI、I-アパタイト、Anを模擬した希土類元素(RE)はアパタイトやモナザイトといった鉱物に固化する。これらを1次固化体とし、詳細な合成手法と固化体の構造、物性、浸出性、耐放射線性、表面物性変化等を最新の材料科学の観点・手法を用いた実験、計算アプローチにより徹底理解する。この1次固化体を稠密かつ耐食性に優れ、特性評価モデルに実績を有するSUSやジルカロイといったマトリクス材料中に熱間等方圧加圧法(HIP)等で固定化し、廃棄体をハイブリッド固化体とする。これにより核種の閉じ込めの多重化に加え、安全評価に必要な長期評価モデルの信頼性も向上させた実効性・実用性のある廃棄体とする。1次固化体とマトリクスとの相互作用を理解した上で、マトリクスの耐食性、環境、他の人工バリア構成等を考慮した処分概念を具体化する。潜在的有害度及び核種移行の観点から処分後の被ばく線量評価を行い、安全な廃棄体化手法及び処分方法を構築することを目的とする。以上によりこれから現実的な課題として廃棄体の合理的な処分の社会実装に向けた検討を行う。