原子力システム研究開発事業

英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業>成果報告会>平成22年度成果報告会開催資料集>原子炉予防保全高度化のための新型高温水質センサの開発

平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

原子炉予防保全高度化のための新型高温水質センサの開発

(受託者)独立行政法人 日本原子力研究開発機構
(研究代表者)佐藤 智徳 原子力基礎工学研究部門
(研究開発期間)平成20年度〜21年度

1.研究開発の背景とねらい
1.1 背景とねらい

 原子力発電プラントシステムの予防保全のにおける対策技術の一つに、原子炉冷却水の水化学(水質)制御がある。水化学制御を最適化するためには、照射下にある原子炉冷却水の水質の把握とそれに基づく水質診断、水化学制御へのフィードバック法の高度化が必要とされる。そのためには、放射線照射下にある高温高圧水中でその場測定が可能な水質センサが必要とされるが、現在のところ、放射線、特に中性子照射下にある高温水中で長期間安定に利用可能な水質その場測定用センサは存在しない。そこで、照射下にある高温水のその場測定を可能とする耐久性の高い水質センサとして、「異種金属アレイ型センサ」の原理を考案した。本事業では、「異種金属アレイ型センサ」の原理を実証するとともに、軽水炉実機の炉内環境において長期間使用可能な新型水質センサの実用化に向けた技術基盤を形成する。

1.2 新型センサのコンセプト

 ある環境にさらされた金属表面は、発生する半電池反応がつりあう条件で安定し、そのときの電位は腐食電位や酸化還元電位と呼ばれる。酸化還元電位は金属種に固有の環境依存性をもつため、ある化学種の濃度に対し、それぞれ異なる応答をしめす電極を組み合わせ、その電位差を測定すると、電位差もまた化学種濃度依存性を示す。この電極の組み合わせを最適化することにより、化学種濃度のその場同定が可能であることが考えられる。したがって、各電極間の環境応答は異なることが必要である。また、半電池反応が複雑化しないように電極材は純金属であることが望ましい。このようなセンサは、センサに利用する電極の形状が単純で済むため機械的破損可能性が複雑形状名センサより低い、半電池反応の特性を把握できれば、いろいろな環境に適用可能である、原子力プラントのような放射線場においても長時間センサ特性が変化しないというような特徴を持つことが期待される。

2.研究開発成果
2.1 センサによる濃度の定量に関する検討

 酸化水素、酸素、水素の各条件に関して、電位差の実測値および解析結果を用いて、センサによる各化学種の濃度の同定を試行した。濃度の同定手順として、まず、すべての電極の組み合わせに関して、電位計算値から電極間電位差の各化学種濃度を導出し、それらの平均値をセンサにより決定される濃度とした。実測された電位差が電位の計算値より決定した電位差と各化学種濃度との相関曲線上に乗らない場合には、廃棄データとした。
 各条件において、最適な電極ペアの選定を実施し、濃度の脳低を実施した結果を実験における注入濃度と比較した結果を図1から図3に示す。まだ各濃度における誤差が大きく、注入濃度と同定された濃度との差異もあるため、今後、更なる高精度化が必要であるが、濃度の傾向は比較的再現できている。DOにかんしては、今後は、50ppb以下の低濃度領域に着目した電極ペアの選定が必要である。DHでは、低濃度用と高濃度用を併用する必要があると考えられる。

図1
図1 同定濃度と注入濃度の比較(H2O2)
図2
図2 同定濃度と注入濃度の比較(O2)
図3
図3 同定濃度と注入濃度の比較(H2)
2.2 センサに用いる電極ペアの有効性
表1 各条件における電極セットの有効性のまとめ
表1

 センサに用いた場合の各純金属電極ペアの有効性を表1にまとめる。本研究では、有効である電極ペアのすべての組み合わせを用いてその平均値から評価を行ったため、それぞれの有効な電極ペアのうちどれかがあればいいというわけではないことに注意する必要がある。表1から、とくにFe、Ni、Crの溶解性電極の有効性が高いことが伺える。

3.今後の展望
3.1 表面処理の最適化に関して

 皮膜形成タイプの純金属電極は、予備処理を行い、表面に緻密で耐性の高い皮膜を形成した後に電極として利用するほうが安定かつ長寿命を確保できることが期待される。表面皮膜の形成によるセンサ応答への影響の定量化とその影響を最小化するための予備処理手法の開発が今後の課題である。

3.2 測定データ処理の最適化に関して

 それぞれの電極のデータを用いて濃度の同定を試行した結果、濃度の傾向は再現できたが、定量においてはまだ乖離が大きかった。この乖離の要因の1つはデータ処理法にあると考えられる。また、実際の電位差測定において、完全は再現性は保証できないため、本来なら、ある条件で電位差を測定した場合の分布を考慮してデータ処理を行う必要がある。そこで、そのような測定値のばらつきを考慮したデータ処理法がこのセンサのような測定手法での定量的評価には必要で、とくに正規分布のようなばらつきを考慮したデータ処理法は有効であると期待される。

■ 戻る ■
Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室