原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集
超臨界水利用MOX燃料リサイクルと材料健全性に関する技術開発
(研究代表者)山村朝雄 金属材料研究所
(再委託先)株式会社東洋高圧、独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究開発期間)平成19年度〜21年度
1.研究開発の背景とねらい
図1 MOX燃料リサイクルのスキーム
水は温度上昇とともに比誘電率が低下し、臨界点(374℃、22.1 MPa)では有機溶媒と同程度になる。この媒体の性質変化とともに、溶質の金属イオンは析出して酸化物の形成に至る。超臨界水を利用すれば、例えばピューレックス法の製品である硝酸ウラニル、硝酸プルトニウムより、それぞれ二酸化ウラン(UO2)、二酸化プルトニウムの製造が可能となる。
アクチノイドの特徴の一つは炭酸錯体の形成であり、炭酸水溶液中でアクチノイド6価は0.2 M程度の高い溶解度を持つ一方、希土類を含むほとんどの金属イオンが水酸化物沈殿を生じる(図1)。このアクチノイドの特徴を利用すれば、図1(2)のように、純粋なプルトニウムを抽出することなく混合酸化物(MOX)燃料を超臨界水により製造できる。炭酸水溶液中に残存する主な核分裂生成物(FP)がアルカリ金属元素等であるため、図1(1)のようにMOX粉末製造時にFP不純物の除去を同時に行える。このことは、混合転換技術として開発が進むマイクロ法加熱直接脱硝法等と比較しても優れた点といえる。このような超臨界水の優れた性質を核燃料の再処理に利用するには、容器材料の健全性の確保・保証が何より重要である(図1 (3))。
本事業では、上記(1)、(2)、(3)のいずれにおいても、以下に述べるように大きな成果を上げてきた。特に(2)における成果は著しく、超臨界水熱法による粒径・結晶形が制御されたアクチノイド酸化物(MOX燃料粉末)の製造は、単独でも新しい燃料製造法として溶液工程、転換工程、粉末工程、後処理の全てが不要となる画期的なプロセスである。
2.研究開発成果
2.1 超臨界水処理FP分離
図2 超臨界水処理FP分離に関する研究開発
(業務項目1のまとめ)
本課題で提案したプロセス(図2 (1))において、超ウラン元素としてネプツニウムを用いた使用済み燃料の溶解液を模擬した溶液について試験を行った。ウラン、ネプツニウムの固相への回収はほぼ定量的に進行した(図2 (2))。ネプツニウムの原子価調整のための炭酸水溶液中での電気化学的検討を行い、充分に高速な酸化還元反応であることを見いだしたが、この調整なしでもウランと同様の酸化数調整が超臨界水反応中に行われた。セシウムの固相への混入は40 ppmであり、UO2固相中に充分に固溶する範囲であり、かつ、本課題における目標の範囲内であった。固相中に含まれる炭酸塩の混入は抑制できる。このFP分離過程における最適条件は、450℃、30 MPaであることが判明した。
2.2 超臨界水処理MOX燃料加工
図3 超臨界水MOX燃料加工に関する研究開発
(業務項目2のまとめ)
UO2調製には、450℃-30minの超臨界水熱合成反応に有機添加剤を混合する必要があるが(図3 (2))、その濃度は10v%程度と希薄でよいことが判明した。生成したUO2の格子定数は添加剤の種類に依存するが濃度に依存せず、不定比性は添加剤濃度に依存した(図3 (3))。添加剤による結晶形、サイズの制御が可能であり、目標値の0.18㎛の粒子が生成できる。ウラン、ネプツニウムの混合溶液から生成した酸化物の格子定数は、ネプツニウム濃度に直線的に依存するVegard則が成立し、均一な(U, Np)O2を生成した。(U, Na)O2の23Na-NMR測定により、不純物としてのアルカリ金属はサイト置換型であり、微視的な均一性の高い強固な格子構造を有する、高品質な試料であることが判明した(図3 (5))。良好な多結晶試料を得るための超臨界水熱合成条件として、450℃、30分、エタノールという条件を抽出した。他方、超小型加熱器、小型冷却器、混合ノズルを開発し、流通式装置を構築した。アルデヒドを用いた場合UO2生成の最適条件は390℃、30 MPa、15 mM、65.1 sであった。有機添加剤の反応中間体を検出し反応機構を検討した。内径8 mmの反応管の利用により必要な二酸化ウランの生成量(0.5 g/min)が得られる。
2.3 超臨界水容器材料健全性確保
図4 超臨界水容器材料健全性確保に関する研究開発
(業務項目3のまとめ)
超臨界条件での各種材料の試験片の腐食処理において、エタノール添加条件では反応溶液中に特に鉄が多く溶出し、腐食に対するエタノール添加の効果が大きいことが判明した。特にSUS304、インコネル625において延性の大幅な低下を観察した。ハステロイC-276では破断面のSEM観察において、SUS304、インコネル625のような粒界の不明確化は必ずしも観察されない(図4 (1))。粒界の存在しない金属ガラス候補材料として、3系統の材料(Zr基、Pt基、Hf基金属ガラス)を合成して試験片を作成し、超臨界炭酸塩水溶液への暴露試験を実施した。特に、ガラス転移点が高いHf基金属ガラスでは、弾性定数、引張強さは変化するが、破面において金属ガラス特有の葉脈模様から劈開面への変化、すなわち脆性破壊への変化と一致する。XRDでは結晶化の進展が明らかとなった。有望とされたSUS316、ハステロイC-276、インコネル625の弾性、靱性の検討において、ハステロイC-276は腐食に敏感でないこと(図4 (3))、腐食速度も非常に小さいこと(図4 (4)、0.01 mm/y)、温度履歴に依存しないことが明らかとなった。1000時間の耐性について検討をおこない、十分な耐性があることが判明した。
3.今後の展望
3カ年間で所与の成果を得ることができ、超臨界水利用MOX燃料リサイクルの基礎技術を構築したといえる。我が国の革新的原子力システム研究開発において有用な知見を生み出す可能性が高く、他の技術分野等への波及効果、技術基盤整備の効果が高い研究開発であると考えられる。
4.参考文献
[1] 山村, 白, 佐藤, 冨安, 森 アクチノイド酸化物の結晶の製造方法. PCT/JP2009/055458.
[2] 山村朝雄, 白崎謙次, 佐藤伊佐務 アルデヒドを用いた水熱合成反応の制御方法. P20100092, 2010年6月25日, (2010).