原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

高解像度X線CTによる燃料棒、燃料集合体の照射挙動の究明

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)浅賀 健男 大洗研究開発センター 燃料材料試験部
(研究開発期間)平成20年度〜22年度

1.研究開発の背景とねらい

 高速増殖炉燃料の最適化設計には照射挙動解明が不可欠であり、そのためには集合体内の全燃料棒の照射に伴う変形、さらには全燃料ペレットの組織変化等の状態変化を高精度で測定する必要がある。そこで本研究では、燃料ペレット内での組織変化により生じた中心空孔の大きさや、ペレット内部の密度変化等を非破壊による高解像度]線CT検査技術により短時間かつ高精度で測定し、照射に伴う状態変化を集合体全体にわたり定量化すること、さらに得られたデータに対して製造仕様や照射条件等の影響を系統的に評価し、照射挙動を解明することを目的とする。
 具体的に以下に示す技術開発により、これらの目標を達成することとする。

1-1 高解像度X線CT検査技術の確立
図1
図1 X線CT検査装置の概要

 これまで開発してきたX線CT検査装置(図1及び図2参照)は、最大の開発課題である照射済燃料集合体からのγ線放出の影響を低減するため、パルス状に高エネルギーX線を発生させ、それと同期した検出システム等を採用することにより、世界で初めて照射済燃料集合体の横断面CT画像の取得に成功した。本装置は、高速増殖炉燃料集合体の寿命制限因子の一つであるバンドル-ダクト機械的相互作用(BDI挙動)の解明を主な目的として設計され、集合体内における燃料棒の位置識別等が可能である[1]〜[5]
 本研究では、燃料棒内に装荷されている燃料ペレットの組織変化状況等を把握するためにX線CT検査精度の高解像度化を図る。これを達成するのに必要な解像度の目標として、寸法測定精度は±0.1mm、さらに画像解析による中心空孔径の評価精度は±0.03mmとする。また、燃料ペレットに形成される柱状晶領域(約99 %TD)、等軸晶領域(約97 %TD)の相対密度差約2%を考慮し、密度識別性能は1 %を目指すこととする。

1-2 高速増殖炉燃料の照射挙動の解明
図2
図2 X線CT検査システムの概要

 MOX燃料を高速増殖炉で照射すると、ペレット中心温度は2000 ℃を超え、半径方向に生じる大きな温度勾配によって、軽水炉燃料に比べ著しい組織変化を起こす。燃料ペレットの横断面を観察すると、外周部から①製造時の組織が残った領域(未変化領域:製造時密度)、②結晶粒が等方的に成長した領域(等軸晶領域:密度約97 %TD)、③焼結時にできた空隙が温度勾配に沿って中心に移動、形成された柱状晶領域(密度約99 %TD)、さらに、④空隙が中心部に移動、集積し、形成した中心空孔が確認される。これらの領域の大きさは、燃料棒内の温度分布を知る上で極めて重要な情報となる。
 これまで、破壊試験(金相組織観察)によりこれらのデータは取得されてきたが、試験に要する手間、時間等の制約のために取得されるデータは1つの集合体で数カ所程度であった。しかし、本研究で目標が達成できれば、集合体に含まれる全燃料棒に関して任意の横断面でデータが取得できるので、燃料集合体、燃料棒の照射挙動解析の性能は飛躍的に向上する。このため得られたデータに対して製造仕様や照射条件等の影響を系統的に評価し、これまでにない膨大な量のデータを用いて照射挙動を解明することができる。

2.研究開発成果
2-1 高解像度X線CT検査技術の確立

 高解像度X線CT検査技術を確立するために、既存のX線CT検査装置について、X線焦点形状の最適化、検出器系の高度化を実施するとともに、得られたCT画像から中心空孔径等を精度良く定量化する画像解析手法を構築した[6]

2-1-1 X線焦点形状の最適化
図3
図3 X線焦点形状最適化の概要

 X線発生装置のX線焦点形状の最適化作業を実施した。具体的には、直径1.0mmの円状のX線焦点形状を長方形形状の検出器コリメータのスリット形状に合致させた。このために、X線焦点形状を収束させる目的で設置している収束用電磁石の配置を約45度回転させるとともに、収束用電磁石への供給電流を調整し、X線焦点形状を最適化した(図3参照)。
 最適化によりX線焦点形状が垂直方向に長軸を持つ楕円形状となり、検出器コリメータスリット形状とほぼ合致したことから、検出器へのX線の有効入射量は平均で約13%増加した。また、実質的な焦点サイズも小さくなりCT画像の解像度も向上した。

2-1-2 検出器系の高度化 

 検出器系の高度化では、コリメータスリットの微細化(スリット幅0.3mm→0.1mm)、高感度半導体検出器の導入及び検出チャンネル数の増加(30→100チャンネル)等により画像性能の大幅な向上(実効解像度:12.5(Lp/cm)→ 27.6(Lp/cm))を図った。特にコリメータスリットの微細化については、加工性の悪いタングステン製のコリメータにメタルソーにより幅0.1mmで長さ230mmに渡りスリット加工する技術を確立し、それらを扇状に0.06°ピッチで100本設けることに成功した(図4参照)。さらに検出器については、厚さが極めて薄く、検出器を密に配置できる高感度半導体検出器を採用し、検出チャンネル数の大幅な増加(30→100チャンネル)を達成し、X線の利用効率を向上させた。模擬試験体の高解像度X線CT画像(図5参照)では、直径0.3mmの空孔や模擬ペレットと被覆管の空隙(ギャップ)も目視確認できた。

図4
図4 検出器コリメータ
図5
図5 模擬試験体の高解像度X線CT画像
2-1-3 画像解析手法の高度化
図6
図6 画像解析による燃料ペレット密度分布の可視化

 得られたCT画像から中心空孔径や密度分布を高精度で定量化する画像解析手法を構築するとともに、模擬試験体を用いた画像性能確認試験を実施した。その結果、従来の約3分の1に相当する±0.03o以内の精度で中心空孔を測定することが可能になるとともに、燃料ペレット内の密度分布を可視化することに成功した(図6参照)。

2-2 高速増殖炉燃料の照射挙動の究明
2-2-1 「常陽」照射燃料集合体の照射後試験

 高解像度X線CT検査技術を高速実験炉「常陽」で照射した燃料集合体に適用し、実照射燃料の高解像度X線CT画像を取得した。試験対象とした燃料集合体は、「常陽」MK-III炉心において照射され、集合体平均燃焼度は53.5 GWd/t、最大中性照射量は8.89×1022n/cm2(E≧0.1MeV)である。主な燃料ペレットの製造仕様は、核分裂性プルトニウム富化度が約16wt%、O/M比が1.97、ペレット直径が4.63mm、理論密度比が94%T.D.である。

図7
図7 実照射燃料の高解像度化前後のX線CT画像の比較
図8
図8 高解像度X線CT画像と金相写真の比較

 図7に高解像度X線CT検査装置にて取得した「常陽」で照射した燃料集合体の軸方向炉心中心位置における横断面CT画像を、高解像度化前に撮像した結果とともに示す。高解像度化により、燃料ペレット内に形成された中心空孔やクラックを鮮明なCT画像で観察することが可能となった。高解像度化後のCT画像では、これまで観察できなかったFPガスが集積して形成されたと推定されるダークリング部が明瞭に観察でき、照射後の燃料ペレットの組織変化状態がより詳細に把握できるようになった。
 また、当該燃料を金相試験に供し、ペレットの詳細な組織観察を実施するとともに、高解像度X線CT検査技術で得られた結果と比較検証した(図8参照)。その結果、±0.03o以内の精度で中心空孔が測定できることやクラック等組織変化状態が両者で良く一致していることを確認した。

2-2-2 X線CTデータに基づく照射挙動評価
図9
図9 燃料ペレット組織変化観察
図10
図10 中心空孔径と線出力の関係
図11
図11 ペレット内密度分布

 高解像度X線CT画像及び画像解析した結果から照射挙動を評価した。
 図9に高解像度X線CT画像を用いて燃料ペレットの組織変化状態を観察した結果を示す。中心空孔は軸方向炉心中心位置から上下約100mmの範囲で形成されており、軸方向炉心中心位置付近の中心空孔が大きいこと等が確認できた。軸方向炉心上部及び下部ではガスバブル領域がペレット中央部で観察される。
 図10に画像解析により燃料ペレットに形成された中心空孔径を算出した結果を示す。中心空孔は線出力が300 W/cmを超えると形成され、その大きさは線出力にほぼ依存している。今後、これらのデータについては製造仕様による影響等について詳細に検討を進める予定である。
 図11に画像解析により燃料ペレット内の密度分布を可視化した結果を示す。軸方向炉心上部での密度分布は、ペレット中央部で低密度化していることが確認できる。これはガスバブル領域の形成により、低密度化していると予測される。一方、軸方向炉心中心位置では、中心空孔の周辺部で高密度化しており、これは柱状晶領域形成による影響と予測される。
 この様に画像解析を導入することによって、膨大なデータに基づく中心空孔の形成状況の系統的な評価や燃料ペレットの密度分布状況が詳細に把握でき、精度の高い照射挙動評価が可能となった。

3.今後の展望

 今後はこれまでの成果に基づき以下の事業を行う計画である。

3-1 X線CTデータに基づく照射挙動評価

 照射に伴う状態変化を集合体全体にわたり定量化するとともに、燃料ペレットの中心空孔や密度分布等の定量データを用いて、製造仕様や照射条件等の影響を系統的に評価し、高速増殖炉燃料の照射挙動を解明する。また、得られたデータを用いた燃料ペレットの熱解析を実施して照射挙動を評価する。

3-2 超高解像度X線CT検査技術の開発

 金相写真により近い解像度レベルでの燃料ペレット観察を目的とした超高解像度X線CT検査技術の開発に向け、X線焦点の超微細化の概念検討とマイクロフォーカスX線CT検査技術の検討作業を実施する。

4.参考文献

[1] 永峯剛 他,日本原子力学会和文論文誌Vol.1, No.2(2002).

[2] K. KATSUYAMA et al., J. Nucl. Sci. Technol., Vol.40, No.4, pp.220-226 (2003).

[3] K. KATSUYAMA et al., Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, Vol.B 255, p.365-372(2007).

[4] K. KATSUYAMA et al., NUCLEAR TECHNOLOGY VOL. 169 .pp73-80, JAN.(2010).

[5] K. KATSUYAMA et al.,IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol.57, Issue 5, Part2(2010).

[6] 浅賀 健男 他,日本原子力学会 2010秋の大会,F05〜F07

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