原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集
Na冷却高速炉のタービン発電システムに関する研究開発
(研究代表者)有冨正憲 原子炉工学研究所
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究開発期間)平成19年度〜21年度
1.研究開発の背景とねらい
図1 Na冷却高速炉のタービン発電システム
Na冷却高速炉のタービン発電システムは従来のNa冷却高速炉発電システムの水蒸気に換えて超臨界CO2を利用する発電システムで、システム構成を図1に示す。本システムでのNaとCO2では、従来システムでのNaと水蒸気のような激しい反応は無く、従来の水蒸気タービン発電システムよりも簡素化されおり、安全性及び経済性に優れたシステムであり、日本、米国、韓国、フランス等ともGen.Wを通じて情報交換しながら研究開発を進めている。本システムでは超臨界点近傍で作動するCO2圧縮機の開発が不可欠で、この度超臨界CO2圧縮機を製作して、超臨界点近傍での性能試験を実施し、性能を評価し、超臨界CO2圧縮機の設計技術を開発する。また、翼列・運転制御解析、実機で使用するタービン及び圧縮機の概念設計を実施し、圧縮機の性能及び健全性を評価し、ガスタービン発電システムの運転制御基礎特性を評価する。更に、超臨界CO2雰囲気中での構造材料の耐食性を評価する。
2.研究開発成果
2.1 超臨界CO2圧縮機性能試験
図2 超臨界CO2圧縮機性能試験装置全景
図3 超臨界点上下近傍での連続運転データ
図4 超臨界CO2圧縮機モデルの性能試験データ
本発電システムでは超臨界領域で作動させる圧縮機が重要機器となる。そこで、圧縮機性能試験装置を製作し、試験データを得て、そのデータをCFDコードで解析評価することにより、超臨界CO2圧縮機の設計技術を開発した。試験装置設計値は圧力11MPa、温度150℃、流量6kg/sで、圧縮機は遠心式とし、試験は設計点及び大きさの異なる3種類のインペラを用いて、亜臨界領域から超臨界領域まで広い領域で行った。試験装置の全景を図2に示す。超臨界CO2を用いて、圧縮機の運転性能を確認するために、定常運転を行い、ロータの回転数を増加させた場合の運転状態を調べた。図3は圧縮機出入口の圧力と温度、流量、圧縮機ロータの回転数を示す。圧縮機入口圧力は亜臨界圧力で、出口圧力は超臨界圧力であり、圧縮機は物性値が大きく変化する臨界点近傍での運転である。ロータの回転数は2回増加させている。ロータの回転数増加中は出口圧力と流量はそれに応じて増加しており、回転数一定時には両者はほぼ一定で、安定した結果となっていることを確認できた。CO2の臨界点近傍で圧縮仕事低減が想定されているが、この状況を調べる目的で、亜臨界圧力から超臨界圧力の領域で、圧力比とエンタルピ増加量を調べた結果を図4に示す。同じ圧力比を実現するのに要するエンタルピ増加量は超臨界圧力領域の方が亜臨界圧力領域より小さいことがわかる。
図5に大きさの異なる3種類のインペラA(直径110mm),B(直径76mm),C(直径56mm)による圧縮機圧力比と無次元流量との関係を示す。各インペラともに圧力は8MPaの超臨界圧力と5MPaの亜臨界圧力のデータである。インペラAとBの場合両圧力とも各々ほぼ同じ曲線となるが、インペラCの場合は両圧力でやや異なっている。これは試験装置一巡の流動抵抗係数が異なっているのがその主要原因と考えられる。試験データを3次元CFDコードCFXにより計算した結果を図6に示す。図中には圧縮機入口、出口の実験値及び計算値を示す。これら各線の低温側は圧縮機入口、高温側は出口であり、通常エントロピは出口側は入口側より大きくなる。亜臨界圧力のケースでは全てこれに該当するが、超臨界圧力のケースでは逆に出口側の値が小さくなっている。この圧力領域では、少しの温度変化に対してエントロピ変化が大きい領域である。超臨界領域では実験値、計算値共に同様な傾向にあるので、この領域での物性値を見直す必要もあると考える。
図5 圧力比と流量
図6 温度とエントロピ(含圧縮機出入口)
2.2超臨界CO2機器・システムに関する設計及び解析
2.2.1 翼列・運転制御解析
図7 圧縮機段数と圧力
(流動解析と設計結果)
図8 50%負荷喪失時発電機負荷喪失事象の計算
翼列解析は汎用流体解析コードFLUENTにより軸流圧縮機翼周りの流動特性を評価した。更に、汎用強度解析コードABAQUSにて、構造強度特性を評価した。運転制御解析はガスタービン発電システムの過渡運転制御解析計算プログラムを作成し、超臨界CO2のガスタービン発電システムの運転制御基礎特性を評価した。
FLUENTコードの主要入力は圧縮機入口の圧力、温度、流量で出力は出口の圧力、温度、速度分布等であり、2次元で計算する。FLUENTと設計結果では、凡そ20%の差が出るが、設計で3次元の流動損失を考慮しない結果とFLUENTの結果を図7に示す。両者の結果は良く合っていることがわかる。FLUENTにて計算した結果を用いて、ABAQUSにより構造強度特性を評価した。この結果、翼に作用する応力値は材料の許容応力内にあることが確認できた。
運転制御解析では、超臨界CO2タービン発電システムを構成する主要機器からなるシステムの過渡運転制御計算プログラムを作成し評価した。図8に50%負荷喪失時発電機負荷喪失事象を対象に高圧プレナムからCO2を排出する解析を実施した。排気増加量を20kg/sまで増加すれば、圧縮機の最高回転数は設計制限値(110%)以内に納まること等を計算できた。解析結果は妥当であり、支配方程式及び解析方法が妥当であることが確認された。これにより、実機の複雑な系統及び制御システムに対する過渡応答解析プログラム作成に関する見通しが得られた。
2.2.2 実機ターボ機械設計
図9 タービンと圧縮機の配置(軸流式と遠心式)
実用プラントのガスタービン(タービン及び圧縮機)の概念設計を実施し、性能を明らかにし、構造断面図を作成した。圧縮機については遠心式と軸流式の両形式について設計を実施した。1500MWe高速炉発電プラント用で設計し、断熱効率として十分高い値(タービン:92%、軸流圧縮機:88%)を期待できること、翼強度や軸振動などの機械構造設計上困難な問題は予想されないことが明らかになった。圧縮機については、軸流と遠心の両形式について設計した結果、性能、サイズ、安定性等全ての面で軸流形式が優れているとの結論に達した。図9にタービンと軸流式・遠心式圧縮機の構造断面と配置例を示す。以上の結果、高性能で信頼性のある実用規模の超臨界CO2ガスタービンの設計が可能であると結論された。
2.3 超臨界CO2中における耐食性に関する研究
図10 長時間腐食試験結果(500℃-5000h)
図11 316FR鋼の重量増加
高速炉構造材料候補材(316FR及び高クロム鋼)を対象に、高温超臨界CO2中(20MPa、400〜600℃)における長時間腐食試験(約8000時間)を実施した。一定時間経過毎に試験片を採取し、試験前後の重量変化から腐食量を測定するとともに、試験後試験片の金属組織観察・分析を実施し、同環境下における候補材の腐食に対する温度・時間依存性を評価した。この結果、316FR鋼及び12Cr鋼の腐食形態を図10に示す。12Cr鋼では表面に2層構造の酸化層が形成されており、この層は、温度が高くなるほど、浸漬時間が長くなるほど増加する傾向にあり、以下の関係式により酸化層形成による重量増加を良好に記述することができた。、
、ここでΔW:重量変化量(g/m2)、Kp:酸化速度定数(g/m2sec-1/2)、t:時間(sec)、K0:定数(72.80)、Q:みかけの活性化エネルギ(5.484×104J/mol), R:ガス定数(J/K・mol)、T:温度(K)。316FR鋼では表面には殆ど酸化物は観察されず、良好な耐食性を示した。重量変化においても明瞭な温度・時間依存性は確認されなかった(図11)。
これら金属組織学的評価に基づき、プラント設計に必要となる腐食しろについて評価を行った。高クロム鋼については年間50μm、316FR鋼については年間4μmをFBRプラント概念設計用の腐食しろとして提案した。
2.4総合評価
CO2の臨界圧力を跨ぐ圧力3.5〜8.2MPaで圧縮機性能試験を実施し、物性値変化の急激な臨界点近傍においても安定運転が可能で、超臨界圧力では圧縮仕事が低減され、既存の圧縮機並みの高い性能を期待できることが明らかになった。汎用解析コードCFXによる解析が十分有効であることを示した。汎用解析コードFLUENTによる軸流圧縮機翼列解析により、1段ごとに解析する方法で21段の多段翼列解析が可能であり、また臨界点近傍においても密度を模擬した理想気体近似により解析が可能であることを示した。超臨界CO2ガスタービン発電システムの過渡運転状態に対する計算機解析の基本形を作成した。実機ターボ機械設計によりタービン及び圧縮機は十分高い性能を達成できることを示した。超臨界CO2中腐食試験では高速炉構造材料の候補材316FRでは殆ど腐食が認められず、良好な耐食性を示した。12Cr鋼についても、層状の酸化層形成が認められるものの、長時間試験においても剥離等は観察されなかった。これら実験結果に基づき、プラント設計に必要不可欠な腐食しろを提案した。
3.今後の展望
これまでの研究により、圧縮機の安定運転や性能の確認、超臨界CO2中での構造材料の耐食性の確認、Na とCO2反応の実験による解明、コンパクトで高圧に耐える高性能熱交換器PCHE (Printed Circuit Heat Exchanger)の開発などに目途がたった。今後運転総合試験を行えば基本的な試験は終了となる。その次のステップは規模を大きくしての確証試験により、システムを確かなものにする。また臨界点近傍でのCO2物性値を見直すことも必要事項と考える。尚、超臨界CO2ガスタービン発電システムは500〜650℃の中温領域で高い熱効率が期待でき、かつシステムも簡素であるから、原子力のみならず、例えば集光型太陽光発電システムや産業排熱等への適用が有力であり、多種の熱源への応用により、地球温暖化防止への多大な貢献が期待される。