原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集
再処理システムに向けた核分裂生成物の高効率分離・分析法の開発
(研究代表者)吉村 崇 大学院理学研究科 助教
(研究開発期間)平成19年度〜21年度
1.研究開発の背景とねらい
使用済み核燃料には、多数の元素が共存する。燃料の再処理、廃棄物処理は、多段階に及ぶ分離過程を経て行われる。これらの分離過程の成分分析をする手法および再処理された核燃料を分析する手段の基礎開発を目的として、マイナーアクチノイドおよび核分裂生成物に含まれる元素を極少量の試料で分離分析する。本研究開発ではキャピラリー電気泳動を採用し、その分離された元素を放射線検出した。さらに、分離挙動をより詳しく理解することを目的として、ランタニドを対象に錯安定度定数、分離挙動および物質の分子構造パラメータとの相関を導出し、アメリシウム、キュリウムの錯安定度定数、金属−配位子間結合距離を得る手法を考案した。
2.研究開発成果
2.1 キャピラリー電気泳動によるランタニド、アメリシウム、キュリウムおよびカリホルニウム分離
図1 10℃でのアメリシウム、キュリウム、カリホルニウムの溶離曲線
電気泳動は内径100μm、全長60 cmのキャピラリーに、α-hydroxyisobutyric acid(HIBA)を含んだ酢酸溶液を泳動媒質として充填し、落差法(10 cm, 10 s)によりランタニド、アメリシウム、キュリウム、およびカリホルニウム試料を導入した後、+30 kVの電圧を印加して行った。電気泳動された試料をキャピラリーの陰極側に接続された分取装置により一定時間ごとに分取し、α、γスペクトロメトリーにより定量した。内径0.1 mmのキャピラリーを用いると、一番効果的にアメリシウムとキュリウムを分離でき、その時間は5分程度であった。さらに恒温槽を用いて内径100 μm、全長60 cmのキャピラリーを10℃の温度になるように設定した。図1にアメリシウム、キュリウム、カリホルニウムの10℃で電気泳動した溶離曲線を示す。10℃の条件では、一番高効率にアメリシウム、キュリウム、カリホルニウムを10分程度で分離できることが分かった。+3価ランタニドとアクチニドの混合試料で電気泳動を行ったところ、ランタニドは原子番号の順番に溶出し、+3価アメリシウム、キュリウム、カリホルニウムも原子番号の順番に溶出した。アメリシウムとキュリウムはプロメチウムとサマリウムの間に溶出した。この結果、ランタニド、アクチニドは8配位のイオン半径の順で溶出されていることが分かった。ランタニドについては、1984年に広川らが、HIBAとランタノイドを等速電気泳動における移動度を出した手法に倣って、今回の実験条件で存在する溶液中の各化学種の存在比を錯安定度定数を用いてキャピラリー電気泳動における移動度を計算した(文献1)。これらのデータを元にキュリウムの8配位のイオン半径を導出する手法ならびにアメリシウムおよびキュリウムとα-hydroxyisobutyrate (HIB-)との錯安定度定数を導出する手法を考案した。金属イオンと配位子との結合距離等の情報は、化学分離等の化学的性質を知る上で重要である。そこで、今回HIB-をもつ3価のランタノイドの分子構造の情報を得ることおよびその情報と溶液中の分離挙動との間の相関を導出し、さらにこの関係から3価アクチノイドの金属―配位子間結合距離を推定する手法を考案した。
次にランタニドおよびアメリシウム、キュリウム、カリホルニウム、ウラン、セシウム、ストロンチウム、テクネチウムを混合した試料をキャピラリー電気泳動した。セシウム、ストロンチウム、+3価ランタニド/アクチニド、ウランの順に泳動され、テクネチウムは逆流した。ランタニドは原子番号の順番に溶出し、+3価アメリシウム、キュリウム、カリホルニウムも原子番号の順番に溶出した。なおこの条件ではウランの溶出時間はかなり遅かった。このことを明らかとするために、HIB-が配位したウラニル錯体を合成し、分子構造を単結晶X線分析により特定したところ、ウラニルのエカトリアル位にはHIB-が2つ結合しているが、さらにHIB-が結合できる部位を有していることが分かった。HIBAとウラニルは、分離の際に錯形成し中性もしくは陰イオンとして存在するために、電気泳動では陰極部位に泳動されなかったものと考えられる。また、テクネチウムは、今回の系では、過テクネチウム酸イオンとして存在しているために逆流したものと考えられる。さらに、ネプツニウムを含んだ系でのランタニド、アメリシウム、キュリウム、カリホルニウムの分離挙動を特定した。この場合もランタニドは原子番号の順、アメリシウム、キュリウム、カリホルニウムも原子番号の順に溶出した。なお、ネプツニウムはルテチウムと近い位置で溶出されたが、非常にブロードな溶離曲線を示した。これは、今回の実験系では大量のネプツニウムが含まれていたため、HIBAと錯形成しないネプツニウムも存在していたためと考えられる。
2.2 オンラインシステム開発
放射線計測装置として、液体シンチレーションカウンタによるα線の測定に着目し、試料溶液を流しながら放射線測定ができる液体シンチレーション測定装置を構築した。まず新しく製作した液体シンチレーション装置を用いてオフラインでのアクチノイド試料の放射線測定を行なった。次にオンライン用の測定セルを作製してアクチノイドの含有溶液を測定することでオンライン液体シンチレーション検出器としての性能を評価した。アメリシウム-241とユーロピウム-152を含有した溶液を流しながら測定を行ったところ、それぞれの検出器で順次放射線を検出できた。しかしながら、計数値の時間変化を測定すると、2台の検出器ともにテーリングがみられ、下流に位置する検出器ではテーリングが顕著になった。これは、粘性の高い乳化シンチレータを用いたためと考えている。そこで、上記の試験結果をもとに、試料をキャピラリー電気泳動し、溶出した分離後の試料溶液を流しながら溶媒抽出できる装置で有機シンチレータに抽出し、フロー型の液体シンチレーションカウンタで放射線測定するシステムを構築した。ウラン、+3価アクチノイド、ランタノイド、セシウム、ストロンチウムが含まれた混合物試料をキャピラリー電気泳動し、溶出した分離後の試料溶液を流しながらトルエンに溶媒抽出できる装置で有機シンチレータに抽出し、さらにフロー型の液体シンチレーションカウンタで放射線測定した。セシウム、ストロンチウムを効果的に除去するため、ランタノイドおよびアクチノイドがシンチレータ中に抽出され、セシウム、ストロンチウムは抽出されない条件で行った。液体シンチレーション法による放射線検出とキャピラリー電気泳動を接続すると、シンチレータとの混合の際に生じる溶液の拡散が原因で、電気泳動で分離された試料が再混合される問題が生じた。このように測定の際の溶液調製法を改善する必要があるものの、アルファ線放出核種であるアクチニドとベータ線放出核種であるランタニドは液体シンチレーション検出器の発光寿命弁別法で区別して測定することが出来た。ウランと+3価アクチノイドはアルファ線のエネルギーとフロー検出の際のピーク時間で互いを弁別できた。
2種類の電解酸化セルを作製し、セリウムRI試料を用いて電解酸化セルの酸化効率を測定したところ、最大64%の効率で+3価のセリウムを1電子酸化できた。電解酸化還元装置とキャピラリー電気泳動装置を接続し、酸化還元前後のRIの+2価のコバルトイオンとエチレンジアミン四酢酸イオンを混合した試料の電解酸化し電気泳動を行ったところ、電解酸化前は、6分程度で泳動されたものが、電解酸化後は、10分以内に溶出されずキャピラリー内部に留まった。このことから、電解法と電気泳動を組み合わせて価数調整して分析することも可能と分かった。
3.今後の展望
実試料と同じ溶液を用いた実験、または試料の前処理等も含めた上での、本分析手法の有用性を調べる必要がある。オンラインシステムでは、キャピラリー電気泳動部位と液体シンチレーション部位との連結に際して、有機シンチレータへ試料の抽出の際に溶液拡散により、分離された試料が再混合した。今後、分離された試料とシンチレータとの混合法を改良する必要がある。さらに、再処理溶液を実際に分離・分析するために、溶液条件、耐放射線性、安全性についても試験を行う必要がある。
4.参考文献
1)T. Hirokawa, N. Aoki, Y. Kiso, J. Chromatogr., 312, p11-29 (1984).