原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

新規抽出剤・吸着剤によるTRU・FP分離の要素技術開発

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)木村貴海 原子力基礎工学研究部門 研究主席
(再委託先)公立大学法人北九州市立大学、国立大学法人東京大学
(研究開発期間)平成17年度〜21年度
1.研究開発の背景とねらい

 我が国では核燃料資源を合理的に、かつ有効に利用することを目指して、安全性、核不拡散性、環境適合性を確保するとともに、経済性にも留意しつつ、核燃料を再処理し、回収されるPu、U等を有効利用することが基本方針となっている。本事業では、とくに環境適合性に着目して、高速炉燃料サイクル及びそれが確立するまでの過渡期における様々な革新的原子炉体系にも柔軟に対応できる再処理プロセスの要素技術として、放射性廃棄物の減容と環境負担低減のために必要と考えられる分離技術の開発を行う。具体的には、(1)超ウラン元素(TRU)分離要素技術開発として、受託者らが開発を進めてきた抽出剤TODGA(テトラオクチルジグリコールアミド)をさらに高性能化し、全てのTRUを分離回収する。さらに、マイナーアクチノイド(MA)の処分法の1つである核変換に対応して、独自に開発してきた抽出剤であるピリジンアミドなどの配位子を含有する新規吸着剤によりMAを分離精製する。また、新規抽出剤の開発を支援するために計算化学的手法を改良する。(2)核分裂生成物(FP)分離要素技術開発として、近年開発されたCs・Srに対し高い選択性を有するカリックスクラウン誘導体やクラウンエーテルを含有する新規シリカ担持型吸着剤、及び新規Fe系化合物吸着剤等を用いるカラム分離法により、Cs、Sr及びMoを効率よく分離回収する。最後に、(3)開発した各要素技術の性能を評価した後、それらで構成した分離システムを提示し、様々な再処理システムへの適合性、有用性等を総合評価する。

2.研究開発成果
(1)TRU分離要素技術開発
①全TRU分離技術開発
図1 図1 TDdDGAを用いたホット多段抽出試験におけるAmとNpの濃度分布

 TODGAよりも高性能な新規抽出剤の開発を目的として、新規ジグリコールアミド(DGA)8種類及び関連するアミド化合物6種類の合成を行った。合成した化合物の基礎特性試験を行い、誘電率、沸点・融点、密度、粘性、抽出容量、蒸気圧、耐酸性及び耐放射線性の項目から総合的に評価した結果、TDdDGA(テトラドデシルジグリコールアミド)抽出剤は、高い抽出容量(TODGAの約5倍)を持つことから、優れた抽出溶媒であることを明らかにした。
 新規に合成した化合物のTRU抽出特性として0.1 M 化合物/n-ドデカンの抽出溶媒を用いて、Am(III), Pu(IV)等のTRU及びU(Y)の抽出分配比、及びFP元素等(Sr, Pd, Tc, Zr, Ba, La, Nd, Eu, Rb, Rh, Te, Cs, Fe, Cr,及びNi)の抽出分配比を測定評価した。多段抽出試験のコールド試験の結果を受けて、多成分元素共存系における析出物(クラッド)の生成抑制条件及びNp(V)の還元条件を検討し、水相条件:0.1 M HEDTA-0.5 M H2O2/1-3 M 硝酸が最適であることを明らかにした。
 TDdDGA/n-ドデカンを抽出溶媒とするTRU(Am, Np)とFP元素(Sr, Y, Zr, Mo, Ru, Rh, Pd, Cs, Ba, La, Nd, Eu)を用いたホット試験を実施するとともに、シミュレーションによる試験条件の決定及び結果の解析を行った。有機相に0.1 M TDdDGA/n-ドデカン、供給液及び洗浄液にHEDTA とH2O2を加える抽出系で、Zr及びPd等の希土類元素以外の抽出を抑制し、抽出器の良好な運転状態のもとでAm及び希土類元素を定量的に分離回収できることを示した(図1)。Npの抽出率は十分高い値ではなかったが、過酸化水素の追加添加で向上させることができると考えられる。さらに、過渡状態解析を含めシミュレーション解析は、試験結果をよく再現し、分離条件の決定、最適条件の決定に非常に有効な手段であることを明らかにした。

②MA/Ln分離技術開発
図2 図2 Oct-PDAを用いたカラム分離試験におけるEu(III), Am(III), Np(IV)及びPu(IV)のクロマトグラム

 アルキル鎖の異なる新規ピリジンアミド(PDA)化合物6種を合成した。担体としてXAD樹脂6種を組み合わせて、抽出クロマトグラフ用吸着剤を調製した。これらの吸着剤の抽出剤溶出試験の結果、オクチル基及びデシル基を導入したPDAとXAD4樹脂で調製したOct-PDA吸着剤及びDec-PDA吸着剤が含浸量も多く、抽出剤の溶出も無視できることを明らかにした。これらの酸及び放射線に対する安定性、及び5 M硝酸における繰り返し使用に対する安定性をAm(III)とEu(III)の分配係数Kdの測定により評価した結果、Oct-PDA吸着剤が安定性に優れ最も実用性の高いことを見出した。さらにOct-PDA吸着剤に対するTRU(Np, Pu, Cm)のKdは1-5 M 硝酸で、Np(IV)、Pu(IV)>Am(III)、Cm(III)であり、AmとCmは軽Ln(La-Gd)と分離できることを明らかにした。また、FP元素のうち、Y、Pd、Zr、Mo、Ruなどは、前工程でMA及びLnから分離することが望ましいことが分かった。
 選定したOct-PDA吸着剤を用いてホット試験を行った。得られた最適条件(カラム内径5mm、カラム長20 cm、溶離液5 M硝酸、溶離速度0.1 ml/分)のもとで、Am(III)と軽Ln(La, Nd, Eu)が分離できることを明らかにした(図2)。Np(IV)、Pu(IV)が共存した場合は、Am(III)を溶離後、0.1 Mシュウ酸により全量回収することができた。さらに、装荷するEu濃度が分離に与える影響については、0.1 MのEu(III)が共存してもAm(III)の分離性能に大きな影響を与えないことを明らかにした。以上により、分離条件の最適化が達成された。

③計算化学的評価

 抽出剤としてDGA及びPDAを対象とし、それぞれの量子化学計算を行い、Direct Force Fieldを用いて結合伸縮、変角、ねじれ角および非結合性相互作用パラメータなどの分子力場パラメータの構築に成功した。さらに、Am及びLnのDGA錯体の分子力学計算を行い、分子構造を作成した。その結果、計算で得られた各種DGA錯体の立体エネルギーとテトラメチルDGA−Lnのカロリメトリー測定によって求めた結合定数及びエンタルピー変化量の間には良好な直線関係が得られ、計算値と実験値との間に定量的構造物性相関(QSPR)を見出すことに成功し、本研究で開発した分子力場パラメータを用いた計算法が、抽出分離シミュレーションに十分適用可能であることを実証した。
 DGA、PDA系のMA、Ln抽出錯体についてQSPR法による検討を行った。上記抽出錯体の分子力場パラメータを用いて分子力学計算及び分子動力学計算を行った。MOMEC力場により精密な有機相 (n-ドデカン)-水相二相界面ボックスを構築したのち、各種金属錯体1分子を有機相あるいは水相に挿入し、298 Kでの分子動力学計算を行い、内部エネルギー差(ΔUorgあるいはΔUaq)及び各種TODGA金属錯体における溶媒分子との安定化エネルギー差(ΔΔU = ΔUorg - ΔUaq)を求めて実験値との相関を調査した。その結果、計算によって得られた金属錯体の安定化エネルギー差と実測された抽出分配比や吸着分配比との良好な直線的相関関係を見出した。この研究成果により、TODGA金属錯体の分配比の推算に対して分子動力学計算を利用したQSPR法が応用可能であることを明らかにし、本計算法によりTODGAのみならず様々なジアミド系抽出剤を設計する手法を確立することに成功した。

(2)FP分離要素技術開発
①Cs・Sr分離技術開発
図3
図3 Cs吸着カラムの実廃液ホット試験結果
図4
図4 Sr吸着カラムの実廃液ホット試験結果

 Cs抽出剤にCalix-crown R14を、Sr抽出剤にDtBuCH18C6またはDtHxCH18C6を選定し、多孔性シリカ/ポリマー複合担体(SiO2-P)へ担持するための改質剤の種類と抽出剤/改質剤比を変えて、組成の異なる多数の吸着剤を合成した。これら吸着剤の安定性を抽出剤や改質剤の溶解挙動、耐酸性及び耐放射線性の観点から詳細に検討し、Cs吸着剤はヘキサデカノール/Calix-crown R14比=1.25、Sr吸着剤はヘキサデカノール/DtBuCH18C6比=1.25が最適な組成であることを明らかにした。
 Cs、Sr、U及びFP元素の吸着挙動を調べた結果、3 M硝酸中でCs吸着剤は、Cs以外の元素をほとんど吸着せず高い選択性を有することが分かった。同様にSr吸着剤では、Sr以外でBaを除き他の元素の吸着は認められなかった。さらに、全TRU分離技術開発の多段抽出試験を経た模擬高レベル廃液から、Cs分離及びSr分離試験を行った。多段抽出試験で添加した錯化剤はCs分離及びSr分離に影響しないことを確認した。
 実廃液によるCs分離試験では、コールド試験と同様にCs以外の元素はカラムに吸着されることなく溶離され、実廃液においてもCsと他の元素との相互分離が可能なことが判明した(図3)。Sr分離においても、コールド試験とほぼ同じ結果が得られた (図4)。実廃液試験でもコールド試験と同様に、カラム分離に関する不具合や顕著な挙動の相違は見られなかった。以上により、最適な分離条件をほぼ確立した。

②Mo分離技術開発
図5
図5 Mo, FP元素のカラム分離試験結果

 Mo吸着剤として、酸化物系吸着剤(Fe-Pb、Fe、Ni、Co、Zrなど)を対象に、調製時の溶液条件、焼結温度などをパラメータとして調製した。酸化物系吸着剤は焼結温度の上昇とともに酸溶液における溶解量が減少し、Fe吸着剤が最も安定であった。Fe吸着剤は、Mo以外の主なFPはほとんど吸着せず、Moと相互分離できることが示唆された。さらに、全TRU多段抽出及びCs・Srカラム分離試験を経た模擬高レベル廃液からMoのカラム分離試験を行った結果、前工程で使用した抽出剤や錯化剤は影響せずに主なFPとMoの相互分離が可能なことが分かった。
 Fe吸着剤についてバッチ法による試験結果は、Moに対する分配係数が高いものの、Tc、Am、Npが僅かに吸着した。カラム法による結果からは、Am、Np を含め主なTRUはFe吸着剤に吸着せずにMoと分離されており、分離基礎試験の結果と合わせると、3 M硝酸中で、Mo以外の主なFP、U及びTRUとMoを相互分離できることを確認し、Mo分離の最適条件をほぼ確立した(図5)。

(3)総合評価

 総合評価では新規TRU・FP分離法をNEXT法の抽出残液に適用するシナリオを想定した。各要素技術開発で得られた最新のデータをもとに、各工程における物質収支を評価し、適切な機器の基数を設定した。また、プロセスを構成する機器のつながりや主要な物質の流れを表すプロセスフローダイアグラムを作成した。さらに、各工程で発生するプロセス廃棄物であるSr廃棄体及びMo廃棄体の性状を評価し、余裕深度処分の可能性を示した。プラントの概念設計として、主要機器リスト、主要機器配置図を作成した。また、主要機器配置図より主要機器の設置セル面積及び設置セル容積を、主要機器リストより機器製作費をそれぞれ試算し、プラント規模を明確化した。さらに、物質収支に基づき、プロセス廃棄物として、高レベルガラス固化体、Sr廃棄体及びMo廃棄体の発生量を評価した。
 類似のMA回収プロセスとの比較において、本分離プロセスは廃液処理すべき水溶液量が比較的少ないという利点を持つことが分かった。プロセス廃棄物発生量の比較において、高速炉及び軽水炉の使用済燃料に対しても本分離プロセスの適用により高レベルガラス固化体の発生量を低減できることが分かった。また、処分場占有面積も高速炉使用済燃料の場合約20%、軽水炉使用済燃料の場合約40%低減できることが分かった。これらの結果より、新規TRU・FP分離法をNEXT法の抽出残液に適用することにより、環境負荷低減効果が得られる可能性が示された。

3.今後の展望
図6
図6 新規TRU・FP分離プロセス

 本事業において、新規抽出剤、新規吸着剤によるTRU、Cs、Sr、Mo分離の要素技術開発結果をもとに、新しい分離プロセス概念を構築した(図6)。本プロセスは、二次廃棄物を発生しにくい、高硝酸濃度を維持して沈殿を生成しにくい、環境負荷低減効果が得られるなどの特長を持つ。今後の展開としては、さらなる最適化の後、TRU分離の実液試験による実証が必要と考えている。

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